経聴塾

はじめに
　初めまして私、天野正昭、通称GONと申します。もう５０年以上前、中学を卒業後、床屋になりたくて山梨の田舎町から横浜にやってきました。
　皆さんは、床屋というと髪を切るところと思われるでしょうが、私からするとお客さんは髪を切ることを通してリラックスできる場所、自分らしくいられる場所として床屋に通われているように感じます。子供さんから９０歳を超える方まで、ありとあらゆる年代の方、ありとあらゆる職業の方が来店されます。髪を切りながら、政治・経済の話から会社への不満、家庭での夫婦仲、子供の教育、健康など、世の中で話題になることすべてがそこで展開されます。私はそういう話を聴くのが面白くて、面白くて、つくづく「床屋になって良かったなあ」と思っています。
　でも若いころは、お客さんの話に私の理解が追い付かないこともしばしばでした。それでもお客さんの高尚な話を通して、私自身いっぱしの経営者気取りでいました。そのようなとき、社員から「先生（私のこと）、公定歩合って何ですか？」との問い掛けに、気持ちが焦りだしました。全く知らないのですからそれは焦りますよね。
　それからです。ピーター・ドラッカーを読みだしたのは。そこにはいままで知らなかったこと、考え方がいっぱい詰まっていました。ドラッカー先生の言葉を借りれば、私にとっての「新しい現実」がそこに広がっていたのです。
　ドラッカー先生の著書を読みながら世の中の仕組みを知り、経営を知り、人を知ることを通して、「自分を知る」ということにつながっていきました。それ以降、ドラッカーを深く読み、新聞やさまざまな書物に目を通し、お客さんの話や人の話に一層耳を傾けるようになりました。
　ふと気づけばいろいろな方から相談を受けるようになっていました。私の中の「経験知」が多少なりとも、お役に立っている実感とありがたさを感じている毎日です。
私にとって賢人の残した金言はまさに経験知そのものです。何年たっても人間は同じことで苦しみ悩むことを知りました。
　床屋の半世紀を振り返れば、仕事柄聴き役を続け、お客様からの相談を受けながら得ることができた知識と知恵、そしてドラッカー先生の教えが私に問題解決のヒントを与えてきてくれました。
　私が始めた「経聴塾」は他者の「経験」と「経営」を「聴く」ことを目的に、さまざまな人が集まる私塾です。集まる人の頭の中に生えているかもしれない雑草を、少しだけ刈り取ることに「経聴塾」がお役に立っているとすればうれしい限りです。なんせ刈るのが床屋の仕事ですから（笑）。
　これから始まる「床屋とドラッカー」談議にしばし耳を傾けていただければ幸いです。